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静岡地方裁判所浜松支部 昭和58年(ワ)306号 判決

主文

一  本訴原告西部タクシー株式会社は反訴原告に対して金七、一五二、二二六円とこれに対する昭和五五年五月一六日以降支払い済みに至るまでの年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求および本訴原告三名の請求を棄却する。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その七を本訴原告西部タクシー株式会社の負担とし、その各一宛を本訴原告佐藤龍、同石貝哲夫および反訴原告の各負担とする。

四  この判決の一項は金五〇〇万円の支払いを命ずる限度で仮に執行することができる。

事実

(申立)

本訴原告三名は左の1、2、3、の判決を求めた。

1  本訴原告佐藤は別紙本件交通事故(一)記載の交通事故について、本訴原告石貝は同(二)記載の交通事故について、本訴原告西部タクシーは同(一)(二)記載の交通事故について、いずれも反訴原告に対して損害賠償債務を負担していないことを確認する。(本訴請求)

2  反訴原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は本訴反訴とも反訴原告の負担とする。

反訴原告は左の1、2、3の判決と2、3についての仮執行宣言を求めた。

1  本訴原告三名の請求を棄却する。

2  本訴原告西部タクシーは反訴原告に対して金一一、八二〇、六五七円とこれに対する昭和五五年五月一六日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(反訴請求)

3  訴訟費用は、本訴については本訴原告三名の負担とし、反訴については本訴原告西部タクシーの負担とする。

(主張)

本訴原告三名は左の(1)ないし(9)のとおり述べた。

(1)  本件交通事故(一)

本訴原告佐藤は、昭和五四年一二月一日、本訴原告西部タクシーの運転手として勤務中、乗客として反訴原告を同乗させて、別紙本件交通事故(一)記載の交通事故(以下、本件交通事故(一)という)を発生させた。

(2)  本件交通事故(二)

本訴原告石貝は、昭和五五年五月一五日、本訴原告西部タクシーの運転手として勤務中、乗客として反訴原告を同乗させて、別紙本件交通事故(二)記載の交通事故(以下、本件交通事故(二)という)を発生させた。

(3)  本件交通事故(一)の結果

本件交通事故(一)により反訴原告は右上腕挫傷の傷害を負つたが、右傷害は昭和五五年一二月二九日治癒した。反訴原告主張の(3)のように反訴原告が右交通事故によつて霧視、歯がぐらぐらになる等の傷害をうけた事実は否認する。

(4)  本件交通事故(二)の結果

本件交通事故(二)によつては反訴原告は傷害を負つておらず、何の治療もうけていない。反訴原告主張の(4)のように反訴原告が右交通事故によつて右側顔面打撲、頸部痛、頭痛、著しい眼痛等の傷害をうけた事実は否認する。あつたとしても軽度の右顔面打撲だけで、けがというほどのものではない。

(5)  反訴原告の症状と本件交通事故(一)(二)との因果関係

本件交通事故(一)(二)に先立つ昭和五四年五月六日、反訴原告は別紙先行交通事故記載の交通事故(以下、先行交通事故という)に遭い、外傷性頸部症候群の傷害を負つている。右(4)掲記のとおり本件交通事故(一)(二)による反訴原告の受傷はきわめて軽く、短時日で治癒している。しかるに、反訴原告は昭和五五年一月四日ごろからたて石眼科医院へ通院しはじめ、その後視力の低下を訴え、また、昭和五六年二月四日ごろからは笠原接骨院へ、同年七月三一日ごろからは八木病院へ頸部の痛みを訴えて通院しはじめ、これらの症状が本件交通事故(一)(二)にもとづくもので、本訴原告三名に責任がある、と主張している。しかし、右の反訴原告の眼の障害はすべて先行交通事故にもとづくもので、本件交通事故(一)(二)との間には因果関係がない。また反訴原告は先行交通事故によつて外傷性頸部症候群の傷害をうけ、その治療中に本件交通事故(一)に遭つて右障害に右上腕挫傷が追加されたが、これは昭和五四年一二月二九日に治癒し、両事故を通じての外傷性頸部症候群も昭和五五年二月六日に治癒している。尤も、その後同年一二月一八日に内山外科医院で後遺症の診断書が出され、昭和五六年九月一四日には後遺症一四級一〇号の認定がされている。これらの事実によれば右後遺症は先行交通事故に起因するものであることは明らかであり、仮に本件交通事故(一)が右外傷性頸部症候群に影響があつたとしてもそれは右一四級一〇号の後遺症に吸収され、それ以上の症状にはなつていない。そもそも反訴原告が主張する八木病院での治療は必要性のないもので、反訴原告の神経質的な性格によるところが大きい。なお、反訴原告は昭和五五年三月六日から内山外科医院に通院しているが、これは年齢に応じて頸椎が変形する平形性頸椎症のためであつて、本件各交通事故とは関係がない。以上によれば、反訴原告主張の(7)の反訴原告が主張する損害は八木病院の分も笠原接骨院の分も、また、たて石眼科医院の分も、すべて本件交通事故(一)(二)と因果関係がない。

(6)  先行交通事故の示談

反訴原告主張の(6)の示談の成立は認める。

(7)  反訴原告の損害

同じく(7)の反訴原告の損害はすべて争う。

(8)  損害の填補

同じく(8)の金一〇〇万円の支払いは認める。

(9)  請求

よつて本訴原告三名は、本件交通事故(一)(二)について本訴原告三名が反訴原告に対して損害賠償債務を負担していないことの確認を求め(本訴請求)、本訴原告西部タクシーは反訴原告の反訴請求の棄却を求める。

反訴原告は左の(1)ないし(9)のとおり述べた。

(1)  本件交通事故(一)

本訴原告ら主張の(一)の交通事故発生の事実は認める。

(2)  本件交通事故(二)

本訴原告ら主張の(二)の交通事故発生の事実は認める。

(3)  本件交通事故(一)の結果

本件交通事故(一)により反訴原告は右上腕挫傷、霧視、歯がぐらぐらになる等の傷害をうけた。

(4)  本件交通事故(二)の結果

本件交通事故(二)により反訴原告は右側顔面打撲、頸部痛、頭痛、著しい眼痛等の傷害をうけた。

(5)  反訴原告の症状と本件交通事故(一)(二)との因果関係

本件各交通事故に先立つ昭和五四年五月六日、反訴原告は先行交通事故に遭い、外傷性頸部症候群の傷害を負つたが、右傷害の治療のための通院の帰途、本件交通事故(一)に遭つて受傷し、さらに右各事故による傷害の治療のための通院の途中、本件交通事故(二)に遭つて受傷したものである。この重なる事故によつて既存の症状は悪化し、新しい傷害も加わつて反訴原告の障害は質的にも量的にも著しく拡大され、治療は長びき、損害が増大したもので、先行交通事故以来今日に至るまでの反訴原告の損害は右三個の事故の連続的重畳的結果として一体として評価すべきであり、反訴原告に生じた右全損害は本件交通事故(一)(二)と因果関係があり、本訴原告西部タクシーは右反訴原告の損害を賠償すべき責任がある。

(6)  先行交通事故の示談

ところで、先行交通事故については、本訴原告西部タクシーが仲に入り、昭和五六年一二月四日、反訴原告と大塩との間において、昭和五六年一〇月分まで(但し、八木病院治療費は同年一一月一八日分まで)の損害について、休業損害金五、〇九三、〇〇〇円、治療費金二、〇九四、五〇一円、通院費(タクシー代)金一三〇万円、後遺症一四級の自賠責補償等を含め、金一〇、六五三、三四〇円で示談が成立している。よつて、反訴原告は右示談成立後の損害を請求する。本訴原告ら主張の(6)掲記の先行交通事故の示談の中に本件交通事故(一)の損害賠償も含まれていた事実は否認する。大塩が本訴原告らの責任の分まで負担する理由はない。

(7)  反訴原告の損害

反訴原告の蒙つた損害は、前記示談成立後の分として左の〈1〉ないし〈5〉のとおり合計金一二、八二〇、六五七円となる。

〈1〉  治療費 金一、一二六、三四七円

八木病院の分が、昭和五六年一一月一九日から昭和五八年三月四日まで金一〇三、五五三円、同年三月二三日から昭和五九年六月一三日まで金九〇、七五〇円、同年六月二七日から昭和六〇年八月二一日まで金七二、九六一円。

たて石眼科医院の分が、昭和五六年一〇月二〇日から昭和五七年六月二一日まで金二四、一〇七円、同年六月二二日から昭和五八年八月六日まで金三九、九七四円、同年八月七日から昭和五九年六月一三日まで金二三、一九三円、同年四月一八日(診断書代)金五、〇〇〇円、同年六月一四日から昭和六〇年一一月一六日まで金三五、一二七円。

医師の指示による村松薬局眼薬代が、昭和五六年一一月一六日から昭和五八年五月三一日まで金一〇、五三二円、昭和五九年六月二七日から昭和六〇年一一月一六日まで金四、三四六円。

笠原接骨院の分が、昭和五六年一一月三日から昭和五七年一一月四日まで金一七八、六〇〇円、同年一一月五日から昭和五八年一〇月二〇日まで金一八〇、四〇〇円、同年一〇月二一日から昭和五九年六月二一日まで金一二五、二〇〇円、同年四月二〇日(証明書代)金二、〇〇〇円、同年六月二二日から昭和六〇年一一月三〇日まで金二二六、八〇〇円。

浜松医大附属病院の分が、昭和五八年六月二九日、三〇日金三、八〇四円。

〈2〉  通院費 金一、五八二、三一〇円

八木病院までのタクシー代片道金一、一六〇円の七七往復分金一七八、六四〇円。

たて石眼科医院までのタクシー代片道金一、〇九〇円の六七往復分金一四六、〇六〇円。

ほかに、八木病院、たて石眼科医院、村松薬局までのタクシー代金一三〇、五一〇円。

笠原接骨院までのタクシー代片道金四六〇円の七八七往復分金七二四、〇四〇円、ほかに金三九九、四〇〇円。

浜松医大附属病院までのタクシー代二往復で金三、六六〇円。

〈3〉  逸失利益 金六、一一二、〇〇〇円

反訴原告は本件交通事故(一)当時五六歳で、野田洋品店として自動車を運転して衣料販売の業務に従事し、かつ主婦として家事労働も行なつていたが、本件各事故以来、特に本件交通事故(一)以後は運転が全くできなくなつたし、本件交通事故(二)以後歩行が著しく困難となつた(現在、歩行能力はある程度回復している)。そこで、同年齢の女子労働者の賃金センサスにもとづき、一か月を金一九一、〇〇〇円とし、昭和五六年一一月から昭和五九年六月までの三二か月間の逸失利益を計算すると金六、一一二、〇〇〇円となる。

〈4〉  慰謝料 金三〇〇万円

反訴原告は健康な勤労婦人であつたが、本件各交通事故によつて前記の状態となつたほか、あたりが真黒にみえることがあり、眼の症状は当分回復の見込みがなく、笠原接骨院にはほとんど毎日のように通つて治療をうけているが、なおかなりの通院を必要とする状態で、老後も近く、先行きは不安そのものである。しかも反訴原告は本訴原告西部タクシーの客として同本訴原告のタクシーに乗車中に本件各交通事故にあい、同本訴原告の従業員に損害賠償の交渉を実際上ゆだねていたのに、突如本訴を提起されたもので、その心の痛手は大きい。これらすべての事情を考慮すれば本件の慰謝料としては少くとも金三〇〇万円が相当である。

〈5〉  弁護士費用 金一〇〇万円

反訴原告は本件交通事故(一)(二)の損害賠償問題をすべて本訴原告西部タクシーにゆだねていたのに突如本件本訴を提起され、よぎなく本件反訴を反訴原告訴訟代理人に委任せざるを得なかつたもので、請求額の約一割の金一〇〇万円が弁護士費用として相当である。

(8)  損害の填補

反訴原告は右損害のうち金一〇〇万円の内払いを本訴原告西部タクシーからうけているので、反訴原告の未填補の損害は金一一、八二〇、六五七円となる。

(9)  請求

以上によつて反訴原告は本訴原告三名の債務不存在確認本訴請求の棄却を求め、本訴原告西部タクシーに対して、本件交通事故(一)(二)についての損害賠償金一一、八二〇、六五七円とこれに対する本件交通事故(二)の翌日である昭和五五年五月一六日以降支払い済みに至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める(反訴請求)。

(証拠)

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからここに引用する。

理由

一  反訴原告が昭和五四年五月六日に先行交通事故に遭い、次いで、同年一二月一日に本件交通事故(一)に遭い、さらに昭和五五年五月一五日に本件交通事故(二)に遭つた事実は当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲一七号証ないし同二〇号証、乙三号証ないし同五号証、同六号証の一、二、同七号証、同八号証、同九号証の一、二、同一〇号証の一、二、三、同一一号証、同一二号証、同一四号証ないし同一七号証、同一八号証の一、二、同二三号証の一ないし三一、同二四号証、同二五号証の一ないし二〇、同二六号証の一、二、原本の存在と成立に争いのない甲二号証ないし同一〇号証に証人山本福春、同八木久男、同健石忠彦の各証言と反訴原告本人尋問の結果を綜合すると右各事故の結果、症状の経過、治療状況について左の(1)ないし(3)のとおりの事実が認められる。

(1)  反訴原告は先行交通事故によつて外傷性頸部症候群の傷害を蒙り、頸頂部痛があり、その治療のために昭和五四年五月二三日から浜松市幸町五丁目の内山外科医院に通院し治療をうけ、症状は回復に向かつていたが、完全に治癒するには至つていないとき、同年一二月一日、右内山外科医院での治療からの帰途、本件交通事故(一)に遭つて衝撃をうけ、重ねて外傷性頸部症候群の傷害を蒙つたほか、足や肩、腕を強打し、右上腕挫傷の傷害も蒙り、同医院に通院して治療をつづけたが、そのほかにも眼が痛い、疲れる、ものがはつきり見えなくなる(霧視)、といつた障害が出るようになり、昭和五五年一月四日から浜松市住吉二丁目のたて石眼科医院で診療をうけるようになつた。

(2)  ところが、右上腕挫傷は昭和五四年一二月二九日ごろには治癒したが、外傷性頸部症候群の症状は軽快化せず、頸部の痛みはつづき、痛み止めの注射をつづける等内山外科医院へ通院して治療をつづけ、眼の方もはかばかしくなく、たて石眼科医院へ通院しているうち、昭和五五年五月一五日、反訴原告は内山外科医院への通院の途中、本件交通事故(二)に遭つてまた衝撃をうけ、前二回に重ねてさらに外傷性症候群の症状が悪化し、首が痛くなつたり頭痛がしたり、目をあけていられなくなつたりといつた症状に苦しめられたほか、視力が急に低下する等、眼の状態も悪化した。

(3)  以来、反訴原告は内山外科医院へ通院するかたわら頸部等の治療のため、浜松市有玉南町の笠原接骨院へ昭和五六年二月四日から通院しはじめ、昭和六〇年一一月二五日以後までこれをつづけ、一方、内山外科医院への通院は昭和五六年四月一四日でやめ、同年七月三一日から浜松市初生町の八木病院へ通院して消炎鎮痛剤、精神安定剤等の投与をうける等して昭和六〇年八月二一日以後までこれが続けられており、たて石眼科医院への通院治療は継続して同年一一月一六日以後までつづけられ、その間医師の処方によつて眼薬の投薬をうけている状態であつた。なお、その間反訴原告は昭和五八年六月二九日と翌三〇日、浜松医大附属病院で眼の検査、診察をうけている。

三  本訴原告三名は右笠原接骨院、八木病院、たて石眼科医院、浜松医大附属病院の診療やその指示による投薬は本件交通事故(一)(二)の結果たる障害の治療に必要とされたものではなく、右にかかつた費用を出捐した反訴原告の損害は右各事故と因果関係がないと主張するが、しかし、前記山本、八木、健石各証言と反訴原告本人尋問の結果その他の各証拠によれば右各診療はいずれも反訴原告の症状にとつて有用有益なものであつたことが認められるし、また、それが先行交通事故と本件交通事故(一)(二)との三つの交通事故による結果が複合した症状に対する診療というべきであつて、そのどの一個の事故だけの結果とみることもできず、従つてそうである以上、本件交通事故(一)またはその(二)、あるいはその両方について損害賠償責任のある者は、すなわち、各加害自動車の運行供用者、保有者であることを争わない本訴原告西部タクシーは自賠法三条により、各加害自動車の運転者で事故についての過失を争わない本訴原告佐藤、同石貝は民法七〇九条により、反訴原告が先行交通事故および本件各事故について蒙つた全責任を反訴原告に賠償する責任があるものというべきである。

四  先行交通事故について本訴原告三名主張の(6)掲記のとおり示談が成立した事実は当事者間に争いがなく、右示談が本件交通事故(一)の損害賠償も含めてなされたとの本訴原告三名の主張は、右示談において作成した大塩と反訴原告間の示談書にもその趣旨の記載はないし、これを認めるに足る証拠がなく、これを容れることができない。

五  そこで反訴原告が主張するように、右示談成立後に限つて反訴原告の損害をみると、左の〈1〉ないし〈5〉のとおり合計金八、一五二、二二六円を認めることができる。

〈1〉  診療費(含む診断書代) 金一、一二六、三四七円

いずれも成立に争いのない甲四号証、乙六号証の二、三、同二三号証の一ないし三一によれば、八木病院に昭和五六年一一月九日から昭和六〇年八月二一日までの間の分として反訴原告が支払つた診療費が合計金二六七、二六四円であることが認められる。

いずれも成立に争いのない乙九号証の二、同一〇号証の二、同一一号証、同一二号証、同二四号証によれば、たて石眼科医院に昭和五六年一〇月二〇日から昭和六〇年一一月一六日までの間の分として反訴原告が支払つた診療費が合計金一二七、四〇一円あることが認められる。

いずれも成立に争いのない乙一三号証の一ないし五四と同二五号証の一ないし二〇によればたて石眼科医院の指示によつて昭和五六年一一月一六日から昭和六〇年一〇月一九日までの間、村松薬局から購入した眼薬代として支払つた分が合計金一四、八七八円あることが認められる。

原本の存在と成立に争いのない甲一〇号証、いずれも成立に争いのない乙一五号証ないし同一七号証、同二六号証の一、二によれば、笠原接骨院に昭和五六年一一月三日から昭和六〇年一一月二五日までの間の分として反訴原告が支払つた診療費が合計金七一三、〇〇〇円であることが認められる。

成立に争いのない乙一八号証の一、二によれば、浜松医大附属病院で昭和五八年六月二九日と翌三〇日に診療をうけて反訴原告が支払つた診療費等の合計は金三、八〇四円となることが認められる。

〈2〉  通院費 金五〇万円

成立に争いのない乙一九号証ないし同二一号証、同二二号証の一ないし四、同二七号証の一ないし一一二、同二八号証の一ないし一八によれば右期間中、右医療機関への通院のために反訴原告が支払つたタクシー代は合計で金一五〇万円を越えていることが認められるが、その症状、期間、公共交通機関の便その他諸般の事情を考慮すれは、右金額のうち金五〇万円を相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。

〈3〉  逸失利益 金二、五二五、八七九円

前記二掲記のとおり反訴原告の頸部痛や運動障害、眼の障害は相当に残存し、現在に至るまで前述の治療をつづけざるを得ない状態で、その主張する先行交通事故の示談が済んだあとの昭和五六年一一月から昭和五九年六月までの三二か月間においてもその労働能力の少くとも四五パーセントを失い得べかりし利益を失つているものとみられるのであるが、反訴原告本人尋問の結果によれば先行交通事故に遭う前の反訴原告は健康な婦人であつて、夫とともに衣料品販売の商売を営み、自から自動車を運転する等の仕事に従事し、かたわら通常の主婦としての家事に従事していた事実が認められ、少くとも同じ年齢の女子労働者の平均収入程度の収入は得られたものとみられるから、賃金センサス昭和五六年第一巻第一表全国産業計企業規模計学歴計五五歳から五九歳までの女子労働者の平均月間給与額金一七五、四〇八円を基準として計算すると、その三二か月分金五、六一三、〇六六円の四五パーセント金二、五二五、八七九円が右期間中の反訴原告の逸失利益となる。

〈4〉  慰謝料 金三〇〇万円

全般の事情を綜合すれば、本件の慰謝料相当額は金三〇〇万円を下ることはない。

〈5〉  弁護士費用 金一〇〇万円

右〈1〉〈2〉〈3〉〈4〉の本件反訴請求の認容額その他本件の諸般の事情を考慮すれは本件反訴と相当因果関係のある反訴原告の損害としては金一〇〇万円を認めるのが相当である。

六  右損害につき本訴原告西部タクシーから金一〇〇万円の填補がなされた事実は当事者間に争いがなく、以上によれば反訴原告の反訴請求は、本訴原告西部タクシーに右五の金八、一五二、二二六円から右金一〇〇万円を控除した金七、一五二、二二六円とこれに対する本件交通事故(二)の翌日である昭和五五年五月一六日以降支払い済みに至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容してその余の部分は棄却し、従つて本訴原告西部タクシーの本件交通事故(一)(二)についての損害賠償債務不存在確認請求の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、また前記三のとおり本訴原告佐藤は本件交通事故(一)につき、本訴原告石貝は同じく(二)につき、いずれも反訴原告に対して民法七〇九条による損害賠償債務があるのでそれぞれの損害賠償不存在確認の本訴請求はいずれも理由がなく、従つて右本訴原告両名の請求も棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項但書、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安倍晴彦)

本件交通事故 (一)

発生日時 昭和五四年一二月一日午後〇時一五分ごろ

発生場所 浜松市有玉南町一、四一三番地先交差点

事故態様 本訴原告佐藤が運転し、反訴原告が同乗する本訴原告西部タクシー所有の普通乗用自動車が、訴外鈴木貴久運転の普通乗用車とが出会いがしらに衝突。

本件交通事故 (二)

発生日時 昭和五五年五月一五日午後三時三五分ごろ

発生場所 浜松市有玉西町二、四一四番地の一三先交差点

事故態様 本訴原告石貝が運転し、反訴原告が同乗する本訴原告西部タクシー所有の普通乗用自動車の側面に、訴外大石英夫が運転する普通乗用自動車に衝突。

先行交通事故

発生日時 昭和五四年五月六日午後四時一五分ごろ

発生場所 浜松市舘山寺町三〇四番地の四七八

事故態様 訴外大塩弘太郎運転の普通乗用自動車が停止中の反訴原告運転の普通貨物自動車に追突。

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